「EMX2 plus」とは、簡単に言うと、完成車メーカーが車両テストにおいて必要な情報を計測するための装置です。エンジンの回転数やECU間の接続を計測することで、自動車に不具合がないことを確認し、本当に販売して良いかを判断します。
「EMX2 plus」のような計測器は、基本的に現地の車両テストのドライバーに装着が任されます。自動車の構造や仕組みに詳しくないケースが多く、計測器の装着・使用方法はできるだけ簡単でなければなりません。また、1~2カ月程度の長期間のテストでも使えるように、走行する度に自動で起動し計測できる仕組みの構築が求められます。開発時はこういったユーザーの傾向や使い勝手も考慮され、仕様が決まっていきました。
今回は、「EMX2 plus」の開発に携わった、O.T.さんとY.K.さん、T.T.さんの3人に開発プロジェクトの話を聞きました。
T.T.
情報工学部情報工学科卒業
2007年入社
Y.K.
工学部電気工学科卒業
2001年入社
O.T.
工学部物質工学科卒業
1998年入社
EPISODE 01
―「EMX2 plus」はマイクロテクノロジー初の自社開発製品とのことですが、そもそもどんなきっかけで開発することになったのかを教えてください。
Y.K.
きっかけは、日本の完成車メーカー数社が、将来的に国際規格に対応する部品やシステムを取り入れる動きがあったからです。従来の日本規格ではなく、国際規格のパーツを採用すると、その規格に対応した車両テスト用計測器が必要となります。つまり、一定の需要が見込めると判断し、開発に踏み切りました。
O.T.
自動車が安全に走行できることを保証する規格は、日本の規格と欧州を中心とした国際規格では、内容や書き方が違っているんです。従来の日本規格用の計測器では、国際規格に対応できないため、新たに国際規格に対応した計測器が必要となります。
T.T.
会社としても、これまでの受託開発のみの収益構造から脱却し、自社開発製品を販売するルートも構築したいタイミングでした。そういった特別な想いもあり、本プロジェクトは社を挙げての一大プロジェクトだったのだと思います。
Y.K.
今回のプロジェクトは、会社のトップからの命令ではなく、部門から立ち上がったものでした。自社開発の製品を世に出したかったのは、新しい市場を開拓し売上拡大を目指すこと、それに加えて知的財産を自社に残したかった側面も大きいです。
T.T.
「EMX2 plus」の需要が見込めそうであることは、O.T.さんのおかげである程度把握していました。長くお付き合いしている完成車メーカーのお客様に、O.T.さんがヒアリングしてくれていたんです。開発したのに誰も買ってくれない、では大赤字になるので、現場レベルで顧客がどれくらいニーズを持っているのかを知れたことも実際にプロジェクトを始動できた理由の1つと言えるかもしれないです。
EPISODE 02
―プロジェクトはどのように進行していきましたか?
O.T.
まずプロジェクトのゴールは、「完成車メーカー独自の計測仕様に加え、欧州標準仕様(=国際規格)に対応し、さまざまなサプライヤの部品で組み立てられた車両をEMX2 plusで計測できるようにすること」です。
Y.K.
プロジェクトの大まかなフローは「市場調査→システム設計→機能設計→開発→試験→評価」です。市場調査は我々3人ともう1人で対応し、設計以降の工程は基本的に別のメンバーに対応してもらいました。評価のみT.T.さんに対応してもらいました。
T.T.
ここにいる3人とも技術者ですが、このプロジェクトで初めてマーケティング活動を経験しました。先程も申し上げたように、「製品を作ったのに売れなかった」では会社に大きな損害が及びます。それを回避するために、販売価格や販売時期、買ってくれそうな顧客層のリストアップ、需要が見込まれる期間、競合の登場のリスク、など、販売に影響する要素を挙げて、それぞれ検討しました。
O.T.
市場調査は2013年5月~2015年5月までの丸2年を費やしました。受託開発では我々が市場調査を実施する必要はなかったのですが、製品を販売する上では重要な活動であることが分かりました。
Y.K.
プロジェクトが計画されたときは、念願の自社製品開発でもあり、取り組みについて楽観的に考えていました。しかし、当事者としてプロジェクトに関わってみると、開発費用の規模が大きく、その分検討事項も多く、実際に開発に着手するまでに多くの労力がかかりました。
T.T.
自社開発なので全て自由に決めて良いはずなのですが、何が正解か分からない状況では、かえって何かを決めることが難しかったです。分からないなりに3人で話し合って仮説を立て、きちんと利益が残るのか、予想通り◯年で減価償却できるのか、といったことをシミュレーションして、プロジェクトの基礎を固めていきました。
EPISODE 03
―プロジェクトを進める上でどんなことに苦労しましたか?
Y.K.
結論から言うと、国際規格への対応に伴う「EMX2 plus」の社内での仕様調整にかなり苦労したと思います。みなさんどうですか?
T.T.
そうですね。従来の日本規格から国際規格にも対応できる計測器を開発するためには、まず国際規格とは何かを理解する必要がありました。国際規格は英語で公開されているので、担当のY.K.さんに翻訳ツールを使いながら地道に読解していただきました。
Y.K.
それで何が大変かというと、内容を理解できても国際規格の通りに開発してはいけないんです。正確に言うとできないんです。日本規格の場合は「何をどの数値の範囲に収める」といった具体的な基準がありましたが、国際規格の場合はもっとアバウトな表現になっています。規格には沿いつつ、基準値を自分たちで設定する必要がありました。
O.T.
要は、国際規格に書いてある内容を理解した上で、各項目に対して正しく車両と通信し、計測できると言える基準を再定義しなければならなかったのです。
T.T.
私はY.K.さんが決めた「EMX2 plus」の仕様が製品として十分な機能を揃えているかをユーザー目線で評価する役割でした。通常の受託案件では、要件に対して機能が十分であるかを最終的には顧客が判断しますが、今回は自社開発なので最終的に判断するのは私です。
Y.K.
T.T.さんとしては評価した上で、「もっとこういう仕様が良いのではないか」という意見で、私としては「国際規格の内容から判断するとこれくらいが妥当」といったように意見が度々衝突したんです。O.T.さんからは顧客目線で、「ユーザーの使い勝手が悪い仕様になると困る」といった意見をもらうことがありました。
T.T.
みんな正解が分からないなりに自分の知見をもとに最適を導いて意見する分、落とし所を決めるのが難しかったと思います。
EPISODE 04
―先程挙がった苦労はどのように解決しましたか?
Y.K.
T.T.さんに仕様の優先度をつけてもらったことで、負担を抑えつつ、ユーザーにとって使いやすい仕様を再定義できたと思います。T.T.さんは、受託開発の仕事でマニュアル整備を長年やってこられたので、ユーザーが「EMX2 plus」を使用するときに見えやすい仕様は優先度を上げ、反対に見えづらい仕様については優先度を下げる、といった調整をしてもらいました。
T.T.
3人とも得意とする領域や持っている知見が異なるので、時折意見はぶつかりつつも、話し合いを続けたことが良かったのだと思います。国際規格についての知見はY.K.さんが一番詳しいし、ユーザー視点での情報はO.T.さんが一番持っているので、仕様の優先度を検討する上で2人の知見は不可欠でした。
O.T.
3人の意見をぶつけ合うのではなく、それぞれの知見を持ち寄って最適なアプローチを都度模索していたのだと思います。プロジェクトにおける役割は明確に分かれていましたが、毎日コミュニケーションは取っていました。3人のうち、誰か1人でも欠けていたらプロジェクトは崩壊していたのではないでしょうか。
Y.K.
そうですね。私も精一杯でしたが、お二人もプロジェクト成功のために踏ん張っておられたので、大変そうなときはフォローを心がけていましたし、フォローしてもらいました。
T.T.
「EMX2 plus」を楽しみにしているお客様もいたので、このプロジェクトを途中で頓挫させてはいけないと必死でした。最終的には、無事製品化し、お客様のところに届けられることができて良かったです。
MESSAGE
―マイクロテクノロジーに興味を持った方に向けてメッセージをお願いします。
T.T.
私が新卒で入社したときは、実際の業務内容や開発について知識も具体的なイメージも持っていませんでした。知識やスキルは入社後に業務を通じて先輩から教えてもらい、身に付けていったので、経験の有無は置いておき、ものづくりに少しでも興味があれば、飛び込んできてほしいです。
Y.K.
開発は突き詰めると「他人の問題の解決」です。問題解決のプロセスは、簡単に言えば「調査→分析→行動設定」です。そして、行動設定を基に解決に向けた具体的な動作(解決手段・技術要素)に落とし込みます。逆に考えると、解決手段・技術要素の幅が広いほど、行動設定の選択肢が広がり、開発の幅も広がります。お互いの解決手段、技術要素を出し合いながらさまざまな問題を解決していきたい方と、ぜひ一緒に働きたいと思っています。
O.T.
今回のプロジェクトのように自動車関連の製品開発の実績が多数あり、車が好きな社員も多数在籍しています。車が好きで、ものづくりが好きな方、お待ちしています。